一級建築士設計製図試験|設計条件を10年分析【試験元が問い続けていること】
一級建築士設計製図試験では、毎年まったく違う建物が出題されます。
保育所、ホテル、美術館、介護施設、図書館、大学、庁舎…。
そのため、「今年は何が課題になるのか。」という建物の種類ばかりに目が向きがちです。
しかし、2016年から2025年まで10年分の設計条件を読み比べると、一つ気付くことがあります。
変わっているのは課題名であって、試験元が受験者に問い続けていることは、大きく変わっていない。
今回は、2016年から2025年までの設計条件だけに着目し、過去問を分析してみました。
この記事では、一つの課題文をどう読むかではなく、過去10年分の設計条件を並べて、
「試験元が毎年変わらず受験生に求めているものは何か」
という視点で分析します。
実際の本試験で課題文をどのように読み進めるかについては、別の記事で詳しく紹介しています。
▶︎ 一級建築士設計製図試験の課題文の読み方|「条件」ではなく「建築」として読む
設計条件だけを10年分比較してみた

課題だけを見ると、毎年まったく違う建築です。
しかし設計条件だけを抜き出して読むと、不思議なことに似た言葉が何度も登場します。
では次に、
- 毎年変わるもの
- 10年間変わらないもの
という視点で整理してみます。

試験元が何を評価しようとしているのかが少し見えてきます。
毎年の設計条件には「その時代」が表れている
まず印象的だったのは、設計条件がその時代の社会を反映していることです。

例えば2020年。
高齢者介護施設では、地域の高齢者へのサービスを提供するとともに、地域の人々との交流を図ることが求められています。
翌2021年になると、今度は集合住宅で
- 在宅勤務
- 入居者同士の交流
- プライバシーへの配慮
が求められました。
さらに2022年は、
- 多様な働き方
- 可変性
- 二酸化炭素排出量削減
という、新しいオフィスの在り方がテーマになっています。
そして2024年には、大学を題材としながら、
- 建築を学ぶ教材となる建築
- 多様性への配慮
- 帰宅困難者への対応
という、防災まで含めた要求へ変化しています。
このように並てみると、試験元は毎年違う建物を出題しているように見えますが、実際にはその時代に建築士へ求められる役割を設計条件に反映しているようにも見えてきます。

課題名が変わる理由は「違う建物を設計させたいから」ではなく、
社会の変化に合わせて、建築士に求められる視点も変化しているから、という視点にもなりますね。
私は課題文を読むとき、「要求室を確認する」のではなく、「どのような建築を設計してほしいのか」という視点で読み進めています。
その具体的な読み方については、こちらの記事で詳しく解説しています。

10年間、繰り返し求められていた「地域との関わり」
一方で、社会課題は変わっているにもかかわらず、10年間ほとんど変わらないこともありました。
その一つが、「地域との関わり」です。
- 2017年のホテルでは、地域交流を意識した計画
- 2018年のスポーツ施設では、地域住民が利用する施設として既存施設との連携
- 2020年の介護施設では、地域包括ケアと地域交流。
- 2021年は集合住宅の入居者同士の交流。
- 2025年は庁舎に住民交流スペースが設けられています。

もちろん、「交流」という言葉が毎年書かれているわけではありません。
しかし、
- 地域住民
- 入居者
- 利用者
- 学生
対象は変わっても、建築を人や地域との関わりの中で考えることは、一貫して設計条件に盛り込まれていました。

私はここが、この10年間で最も変わらなかった評価軸ではないかと感じました。
利用者は変わっても、「利用者目線」は変わらない
地域との関わりと並んで、10年間を通して共通していたのが利用者への配慮です。
- 2016年は子ども
- 2020年は高齢者
- 2021年は入居者
- 2023年は図書館利用者
- 2024年は学生や教職員
- 2025年は住民
対象となる利用者は毎年変わっています。
しかし、設計条件を読むと、どの課題でも「誰が使う建築なのか」を意識した計画が求められていました。
例えば2021年の賃貸集合住宅では、
- 在宅勤務を考慮した住戸
- 入居者同士が交流できる共用室
- テナント利用者と居住者の動線やプライバシーへの配慮
など、単に住戸を並べるのではなく、暮らし方まで考えた計画が求められています。
2024年の大学でも同じです。
求められているのは教室を配置することではありません。
- 教材として活用できる建築であること
- 多様な利用者に配慮すること
- 災害時にも施設を利用できること
など、建築を利用する人の視点が設計条件の中に盛り込まれています。
つまり利用者は毎年変わっても、「誰のための建築なのか」を考えることは、この10年間を通して一貫して求められていました。
環境への配慮は、時代とともに求められる内容が具体的になった
もう一つ興味深かったのが、環境に関する設計条件です。
2016年、2017年頃は「パッシブデザイン」がキーワードとして登場しています。
自然エネルギーを活用し、建築そのものの工夫によって快適な環境をつくるという考え方です。
それが近年になると、
- 省エネルギー
- 二酸化炭素排出量削減
といった、より具体的な環境性能が設計条件に盛り込まれるようになります。
言葉は変わっています。
しかし共通しているのは、建築は環境に配慮して計画するものという考え方です。

これは一時的な流行ではなく、この10年間を通して設計条件の中で繰り返し求められてきました。
防災は近年、より重要なテーマになっている
10年間を比較した中で、一番変化が分かりやすかったのが防災です。
以前から構造安全性や避難計画は当然求められていました。
しかし近年は、「安全に避難できる建物」だけではなく、
「災害後も機能し続ける建物」
が求められるようになっています。
例えば2024年の大学では、帰宅困難者への対応が設計条件に含まれています。
2025年の庁舎では、
- 建築物の機能維持
- 防災備蓄倉庫
- 防災を考慮した計画
など、災害発生後まで見据えた設計条件となっています。
つまり、防災も10年前とは少し意味が変わっています。

建物が壊れないことだけではなく、地域を支える拠点として機能することまで設計条件の中で求められるようになり、
2025年の本試験では、「大地震等の自然災害が発生した際、発電機の給電対象とする設備機器と配慮した点」が記述で求められました。
10年間の分析から見えた「変わるもの」と「変わらないもの」
ここまで整理すると、設計条件には二つの特徴があることが分かります。
一つは、時代によって変わるもの、もう一つは10年間変わらないものです。

- 子育て支援
- 地域包括ケア
- 在宅勤務
- 脱炭素
- 防災
これらは、その時代ごとの社会課題を反映しているように見えます。
そしてもう一つ、
- 地域との関わり
- 利用者への配慮
- 環境への配慮
- 安全性
といった、建築を計画するうえでの基本的な視点です。
課題名は毎年変わります。
しかし設計条件を見る限り、試験元が受験者に問い続けていることは、大きく変わっていません。

この「変わるもの」と「変わらないもの」を理解することが、過去問分析の一番大きな意味なのかもしれません。
実は私自身、このことに気付いたのは合格した年でした。
それまでは設計条件を読んでいても、エスキスが始まると建築主の要求を忘れ、「部屋をどう納めるか」ばかり考えていました。
私がランクⅢを繰り返した原因については、こちらの記事で詳しく書いています。

試験元は何を評価しているのか
ここまで2016年から2025年までの設計条件を比較してきました。
課題名は毎年変わります。
保育所、ホテル、スポーツ施設、美術館、介護施設、集合住宅、図書館、大学、庁舎。
一見すると、それぞれ別の知識や経験が求められているように感じます。

しかし設計条件だけを読み比べると、少し違う見方もできます。
試験元は「ホテルを設計できる人」や「庁舎を設計できる人」を選ぼうとしているわけではなく、
むしろ、
建築に求められる役割を理解し、それを計画に反映できる建築士を評価しようとしているように感じます。
例えば2021年の集合住宅で求められた「在宅勤務」は、単に仕事部屋を設ければよいという話ではありません。
2025年の庁舎で求められた「住民交流」も、住民交流スペースを設ければ終わりではありません。
設計条件では毎年、「その建築は社会の中でどのような役割を果たすのか」が示されています。
そして、その役割を平面計画や動線計画、配置計画にどう反映するかが、設計製図試験で問われているのではないでしょうか。
だからこそ、設計条件には毎年違うキーワードが登場します。
- 子どもの成長
- 地域包括ケア
- 在宅勤務
- 脱炭素
- 帰宅困難者
- 住民交流
それぞれ時代を反映した言葉ですが、問いかけている内容は共通しています。
「この建築は、何を実現するための建築なのか。」
試験元が受験者へ問い続けているのは、この一点のような気がしてきます。
過去問分析で本当に見るべきもの

過去問を分析するとき、私たちはつい平面図に目がいきます。
「ホテルはこんなゾーニングだった。」
「図書館はこんな動線だった。」
もちろん、それらを学ぶことも大切です。
しかし、それだけでは翌年の課題が変わったときに応用できません。
設計条件には毎年その建築の役割が書かれています。
つまり、過去問から学ぶべきなのは「ホテルの平面」ではなく、「なぜホテルにこの設計条件が与えられたのか」という背景です。
だから私は、過去問分析をするときは課題名だけでなく、設計条件を読み比べることに大きな意味があると考えています。
とはいえ、本試験では限られた時間の中で設計条件を読み取らなければなりません。
私は読み落としを防ぐために、設計条件や要求室を4色で整理しながら読み進めていました。
本試験で実際に行っていた方法は、こちらの記事で紹介しています。

まとめ

2016年から2025年までの設計条件を読み比べてみると、毎年違う建物が出題されながら、その背景には時代ごとの社会課題が反映されていることが見えてきました。
それでも、
- 地域との関わり
- 利用者への配慮
- 環境への配慮
- 安全性
といった建築の基本的な視点は、10年間を通して繰り返し求められています。
だから過去問を見るときも、「どんな平面だったか」だけを見るのではなく、
「なぜ、この設計条件が与えられたのか。」
を考えてみる。
その先にあるのは、「この建築は、何を実現するための建築なのか。」という問いです。
建物の種類は毎年変わります。
でも、この問いに答える力は、どんな課題でも必要になるのではないでしょうか。




